Sorgenfrey直線およびSorgenfrey平面の位相的性質に関する詳細な解説

位相空間論(一般位相幾何学)において、Sorgenfrey直線およびその直積であるSorgenfrey平面は、非常に有名な反例として用いられる重要な位相空間です。これらはアメリカの数学者 Robert Sorgenfrey にちなんで名付けられました。

この空間は、位相空間における「直積空間」を考える際に、「正規空間 (normal space) の直積は必ずしも正規空間 (normal space) にはならない」ことや、「Lindelöf空間 (Lindelöf space) の直積は必ずしも Lindelöf空間 (Lindelöf space) にはならない」ことを鮮やかに示すための代表例として知られています。

1. 定義

定義1:Sorgenfrey直線 (Sorgenfrey line) $\mathbb{R}_l$
実数の集合 $\mathbb{R}$ に対して、半開区間 $[a, b)$ (ただし $a < b$)の形をした部分集合の族を開基 (basis)として生成される位相空間です。この位相は「下限位相 (lower limit topology)」と呼ばれます。
開基とは、その空間の任意の開集合が「開基の要素の和集合」として表現できるような集合族のことです。
定義2:Sorgenfrey平面 (Sorgenfrey plane) $\mathbb{S}$
2つの Sorgenfrey直線 の直積空間 $\mathbb{R}_l \times \mathbb{R}_l$ です。直積位相の定義により、この空間の開基は「半開矩形」 $[a, b) \times [c, d)$ によって与えられます。これはユークリッド平面における通常の開矩形に比べ、左端および下端の境界(頂点を含む)を含むことが特徴です。

2. Sorgenfrey直線 ($\mathbb{R}_l$) の性質と証明

満たす性質とその証明

第1可算空間 (first-countable space)
証明: 各点において可算な基本近傍系を持つ空間を第1可算空間 (first-countable space) と呼びます。任意の点 $x \in \mathbb{R}_l$ に対して、可算個の開集合族 $\mathcal{B}_x = \{[x, x + \frac{1}{n}) \mid n \in \mathbb{N}\}$ を考えます。$x$ を含む任意の開基 $U = [x, b)$ に対して、Archimedesの公理より $x + \frac{1}{n} \le b$ となる十分大きな自然数 $n$ が存在します。したがって $[x, x + \frac{1}{n}) \subseteq [x, b)$ となり、$\mathcal{B}_x$ は可算基本近傍系をなします。
可分 (separable)
証明: 可算な稠密部分集合を持つ空間を可分 (separable) と呼びます。有理数の集合 $\mathbb{Q}$ は可算集合です。実数の稠密性から、任意の空でない開基 $[a, b)$ に対して $a < q < b$ を満たす有理数 $q$ が必ず存在します。したがって $\mathbb{Q}$ は $\mathbb{R}_l$ においても稠密であり、$\mathbb{R}_l$ は可分 (separable) です。
正規空間 (normal space)
証明: 互いに素な2つの閉集合を開集合で分離できる Hausdorff空間 (Hausdorff space) を正規空間 (normal space) と呼びます。互いに素な任意の閉集合 $A, B \subseteq \mathbb{R}_l$ を取ります。
各 $a \in A$ について、$a \notin B$ かつ $B$ が閉集合であるため、$B^c$ は開集合です。よって、ある $\epsilon_a > 0$ が存在し $[a, a + \epsilon_a) \cap B = \emptyset$ とできます。同様に、各 $b \in B$ について $[b, b + \delta_b) \cap A = \emptyset$ となる $\delta_b > 0$ を取ります。
開集合 $U = \bigcup_{a \in A} [a, a + \epsilon_a)$ と $V = \bigcup_{b \in B} [b, b + \delta_b)$ を定義します。明らかに $A \subseteq U$, $B \subseteq V$ です。
$U \cap V = \emptyset$ であることを背理法で示します。もし $z \in U \cap V$ とすると、ある $a \in A$ と $b \in B$ が存在し、$a \le z < a + \epsilon_a$ かつ $b \le z < b + \delta_b$ となります。$a \neq b$ なので対称性から $a < b$ と仮定します。すると、$a < b \le z < a + \epsilon_a$ となります。これは $b \in [a, a + \epsilon_a)$ を意味し、$[a, a + \epsilon_a) \cap B = \emptyset$ であることに矛盾します。よって $U \cap V = \emptyset$ となり、正規性が示されました。
Lindelöf空間 (Lindelöf space)
証明: 任意の開被覆が可算部分被覆を持つ空間を Lindelöf空間 (Lindelöf space) と呼びます。$\mathbb{R}_l$ の任意の開被覆 $\mathcal{U}$ が与えられたとします。
各 $U \in \mathcal{U}$ は開基の和集合なので、$U = \bigcup [x, y_x)$ の形に表せます。通常のユークリッド位相における開区間 $V_x = (x, y_x)$ を考え、$V = \bigcup V_x$ とおきます。通常の $\mathbb{R}$ は第2可算空間 (second-countable space) なので Lindelöf空間 でもあり、$V$ を被覆するのに可算個の $(x, y_x)$ で十分です。
残りの部分集合 $E = \mathbb{R} \setminus V$ を考えます。もし $x \in E$ ならば、$x$ はどの $(z, y_z)$ にも含まれません。しかし元の開被覆の性質上、$x$ を左端とする半開区間 $[x, y_x)$ には覆われています。このとき、もし非可算個のこのような左端点が存在すれば、実数の第2可算性に矛盾することが示されます(あるいは Baireの範疇定理を用いて示せます)。したがって $E$ は高々可算集合であり、可算個の $[x, y_x)$ を追加するだけで $\mathbb{R}$ 全体を被覆できます。
完全不連結 (totally disconnected)
証明: 連結成分が1点のみからなる空間を完全不連結 (totally disconnected) と呼びます。$\mathbb{R}_l$ において、任意の半開区間 $[a, b)$ は開基の要素なので開集合です。同時に、その補集合 $(-\infty, a) \cup [b, \infty)$ も開集合の和として表せるため開集合です。したがって、$[a, b)$ は開であり閉でもある集合(clopen)です。任意の2点 $x < y$ に対して、$[x, y)$ は $x$ を含み $y$ を含まない clopen な集合なので、2点以上を含む集合は必ず clopen な集合で非自明に分割されます。よって連結成分は1点のみです。

満たさない性質とその証明

超不連結 (extremally disconnected)
証明: 任意の開集合の閉包が開集合になる空間を超不連結 (extremally disconnected) と呼びます。$\mathbb{R}_l$ が超不連結ではないことを示します。
開集合 $U = \bigcup_{n=1}^{\infty} [\frac{1}{2n+1}, \frac{1}{2n})$ を考えます。$0$ の任意の基本近傍 $[0, \epsilon)$ はある $n$ について $[\frac{1}{2n+1}, \frac{1}{2n})$ と交わるため、$0 \in \overline{U}$ です。しかし、$0$ を含む任意の基本近傍 $[0, \epsilon)$ は必ず $U$ の補集合の元(例えば $\frac{1}{2n}$)を含むため、$[0, \epsilon) \subseteq \overline{U}$ となることはありません。したがって $\overline{U}$ は開集合ではなく、$\mathbb{R}_l$ は超不連結 (extremally disconnected) ではありません。
第2可算空間 (second-countable space)
証明: 可算な開基を持つ空間を第2可算空間 (second-countable space) と呼びます。もし $\mathbb{R}_l$ が可算な開基 $\mathcal{B}$ を持つと仮定します。
任意の $x \in \mathbb{R}$ に対して、開近傍 $[x, x+1)$ を考えると、開基の定義から $x \in B_x \subseteq [x, x+1)$ となる開基の要素 $B_x \in \mathcal{B}$ が存在します。このとき明らかに $x$ は集合 $B_x$ の最小値($\min B_x$)となります。
したがって $x \neq y$ ならば $x$ と $y$ は異なる最小値を持つため、$B_x \neq B_y$ となります。実数は非可算(連続体濃度)なので、そのような $B_x$ も非可算個存在しなければならず、$\mathcal{B}$ が可算であるという仮定に矛盾します。
距離化可能 (metrizable)
証明: Urysohnの距離化定理 (Urysohn's metrization theorem) などの定理に関連しますが、一般に「距離化可能かつ可分 (separable) な空間は必ず第2可算空間 (second-countable space) である」という性質があります。$\mathbb{R}_l$ は可分 (separable) ですが第2可算空間 (second-countable space) ではないため、距離空間の位相と同相になることはできません。

3. Sorgenfrey平面 ($\mathbb{S} = \mathbb{R}_l \times \mathbb{R}_l$) の性質と証明

満たす性質とその証明

第1可算空間 (first-countable space)・可分 (separable)・完全正則空間 (Tychonoff space)
証明の要点: 位相空間論において、これらの性質は「可算回の直積演算によって保存される性質」です。

満たさない性質とその証明(Sorgenfrey平面の反例としての核心)

Jonesの補題 (Jones's lemma)
可分 (separable) な正規空間 (normal space) において、連続体濃度 $\mathfrak{c} = 2^{\aleph_0}$ を持つような閉離散部分空間は存在しない。
正規空間 (normal space) ではない
証明: 反対角線 $\Delta = \{(x, -x) \mid x \in \mathbb{R}\}$ という部分集合を考えます。
  1. $\Delta$ は閉集合である: $\Delta$ に属さない任意の点 $(a, b)$ を取ります(すなわち $b \neq -a$、$a+b \neq 0$)。$a+b > 0$ であれば、$\epsilon = a+b$ として開近傍 $[a, a+\epsilon) \times [b, b+\epsilon)$ を取ると、この近傍内の任意の点 $(x, y)$ は $x+y \ge a+b > 0$ となり、$\Delta$ と交わりません。$a+b < 0$ の場合も同様です。したがって $\Delta^c$ は開集合であり、$\Delta$ は閉集合です。
  2. $\Delta$ は離散部分空間である: $\Delta$ 上の任意の点 $(x, -x)$ に対して、開近傍 $[x, x+1) \times [-x, -x+1)$ を考えます。この近傍内の点で $x+y = 0$ を満たすのは $x=x, y=-x$ の1点のみです。したがって $\Delta$ 上の誘導位相は離散位相となります。
  3. 結論: $\Delta$ は連続体濃度 $\mathfrak{c}$ を持つ閉離散部分空間です。一方で $\mathbb{S}$ は可分 (separable) です。もし $\mathbb{S}$ が正規空間 (normal space) であると仮定すると、Jonesの補題 (Jones's lemma) に矛盾します。したがって $\mathbb{S}$ は正規空間ではありません。
Lindelöf空間 (Lindelöf space) ではない
証明: 一般に「Lindelöf空間 (Lindelöf space) の閉部分空間はまた Lindelöf空間 である」という定理があります。もし $\mathbb{S}$ が Lindelöf空間 であると仮定すると、その閉集合である反対角線 $\Delta$ も Lindelöf空間 でなければなりません。
しかし、$\Delta$ は離散位相が誘導されているため、各点 $(x, -x)$ を単集合として開被覆 $\{\{(x, -x)\} \mid x \in \mathbb{R}\}$ を構成できます。この被覆から可算部分被覆を取り出すことは不可能です($\Delta$ が非可算集合であるため)。これは $\Delta$ が Lindelöf空間 であることに矛盾するため、元の空間 $\mathbb{S}$ も Lindelöf空間 ではありません。
パラコンパクト (paracompact) ではない
証明: 位相空間論の基本定理として、「Hausdorff空間 (Hausdorff space) であるパラコンパクト (paracompact) 空間は、常に正規空間 (normal space) である」という事実があります。$\mathbb{S}$ は Hausdorff空間 ですが、前述の通り正規空間 (normal space) ではありません。この対偶をとることにより、$\mathbb{S}$ はパラコンパクト (paracompact) ではないことが直ちに導かれます。

4. まとめ:性質の比較表

以下の表は、$\mathbb{R}_l$ を直積することでどのように位相的性質が失われるかを視覚的にまとめたものです。

位相的性質 Sorgenfrey直線 ($\mathbb{R}_l$) Sorgenfrey平面 ($\mathbb{S} = \mathbb{R}_l \times \mathbb{R}_l$)
Hausdorff空間 (Hausdorff space) 満たす 満たす
完全正則空間 (Tychonoff space) 満たす 満たす
正規空間 (normal space) 満たす 満たさない
可分 (separable) 満たす 満たす
第1可算空間 (first-countable space) 満たす 満たす
第2可算空間 (second-countable space) 満たさない 満たさない
Lindelöf空間 (Lindelöf space) 満たす 満たさない
パラコンパクト (paracompact) 満たす 満たさない
局所コンパクト (locally compact) 満たさない 満たさない
完全不連結 (totally disconnected) 満たす 満たす
超不連結 (extremally disconnected) 満たさない 満たさない
参考文献